トップメッセージ
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信頼回復への再スタート
2018年8月に、フジクラグループ製品の一部において品質管理に関わる不適切な事案のあることが判明いたしました。品質管理データの改ざん等により、フジクラにとって最も大切なお客様や株主様をはじめとするステークホルダーの皆様の信頼を毀損させてしまったことを改めてお詫び申し上げます。
今般の品質問題では、リスクマネジメントの脆弱性が顕在化し、再発防止策の徹底を図るとともに、経営基盤のさらなる強化として監査等委員會や取締役會の監視?監督機能を高めていく必要がありました。そこでガバナンス改革として、2019年4月には品質コンプライアンスをグループ全體で確保するため、それまでカンパニー內にあった品質統轄部門ならびに內部監査室を私の直轄部門とし、6月に社外取締役を1名増員しました。再発防止対策を著実に実行することでガバナンスの向上と品質管理體制の強化と定著を図ってまいります。
品質はモノづくり企業の価値そのものであるということを肝に銘じ、品質不適切事案の再発防止策の策定?実行とコンプライアンス體制のさらなる強化を通じて、お客様、取引先、株主様、地域社會などあらゆるステークホルダーとの信頼関係を再構築すること、それが社長である私の第一の責務だと認識しています。
2019年は、2020中期経営計畫達成に向けて、フジクラブランドの向上を図ります。そのためには、重要なステークホルダーである顧客?社員?株主それぞれの視點から企業価値を考える必要があると考えています。
1つ目は、顧客の視點から企業価値を考えることです。具體的には、社長直下にCS(お客様満足)向上推進室を設け、『技術のフジクラ』としての信頼回復を図り、長期的かつ強固な関係性を築いていきます。
2つ目は、働いている社員の視點から企業価値を考えることです。昨今、働き方改革が時流となっていますが、私たちはこれを「働きがい変革」とし、社員のモチベーションの維持向上や働きやすい環境づくりにより、仕事に誇りを持ち、自発的に行動することに焦點を當て、取り組みを進めていきます。
3つ目は、株主の視點から企業価値を考えることです。コーポレート?ガバナンスの強化を図り経営の透明性を高めるとともに、財務體質の健全化、そして稼ぐ力を取り戻していきたいと考えています。
この3つの視點で企業価値を高めることでフジクラブランドを向上させていきます。
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厳しい経営環境下における將來の成長へ向けた成果
フジクラの取締役社長に就任した2016年4月から3年が経ち、社長就任と同時に始まった2020中期経営計畫の目標達成へ向け、フジクラグループをお客様価値創造企業とするべく、「高い収益力」と「強い新陳代謝力」を両輪に、將來性ある未來に続く會社とすることを目指しています。
しかし、足元は非常に厳しい経営環境となっています。データセンタ向け光部品や國內の電線といった國內外マーケットの競爭激化の影響に加え、バングラデシュの送電線工事において材料費の急騰等に伴うコスト増、スマートフォン向けFPC?コネクタの急減などがあり、2018年度は減益となりました。また、FPCや光ファイバの設備投資に伴う借入金増加の金利負擔等の営業外費用の増加、ブラジルにおける電力向け事業が不振であったことに伴う投資損失、品質管理に関わる不適切事案に関連する損失等の特別損失など、さまざまな負の要因が積み重なりました。
一方で成長へ向けた種まきの成果が出てきました。情報通信事業分野における戦略商品である超高密度の光ケーブルSWR?とWTC?ですが、ハイパースケールデータセンタ間を結ぶ6,912心のファイバを束ねたWTC?の開発に成功し、かつ従來の光ファイバの単心系を250μmから200μmに最小徑化されたことで、データセンタ関連市場に急速に浸透してきています。また歐州においては、空気圧でケーブルを敷設する歐州獨特の工法に応える空気圧送型細徑高密度光ファイバリボンケーブルAir Blown Wrapping Tube CableTMを開発し、既に歐州のキャリア向けに納入を開始するなど、歐州における光ファイバ網構築の新規成長市場の獲得もできました。
エレクトロニクス事業については、他社と差異化ができているところは、高品質ならびに優れた生産性と考えています。AIやIoT 活用によるものづくりのデジタル革新によって、高品質を維持しつつ高難易度品を製造し、生産性を改善することによって利益率の向上につなげていきます。
自動車電裝事業については、CASE(コネクテッド化、自動運転化、シェア/サービス化、エレクトリック化)への対応を進めており、一番親和性が高いエレクトロニクス事業と合體させ、電子電裝?コネクタカンパニーとすることで、CASEを迎える自動車分野へのソリューション強化を進めていきます。
また、近年は気候変動問題への対応が広く社會から求められています。フジクラグループは気候変動対応に関する長期ビジョンとして、2016年にフジクラグループ環境長期ビジョン2050を制定し、2050年の未來を見據え、環境負荷の最少化に向けた4つのチャレンジに取り組んでいます。さらに、気候関連のリスクと機會が財務に及ぼす影響を整理するために、TCFDへの賛同を表明するとともに、國際的な再生可能エネルギー普及のイニシアチブであるRE100に加盟しました。
事業環境の変化が激しく、成果と課題が相半ばしている狀況ではありますが、フジクラグループの競爭優位性であるお客様との深い信頼関係、高い技術力、社會変化への適応力の3つを最大限発揮し、目標達成へ向けて邁進していきます。
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ROIC経営による「稼ぐ力」の管理と強化
調達資本コストへの理解促進と、ROICを念頭に置いた収益管理、資産管理の徹底をグループ內に強く訴求していきます。また、財務體質の一層の健全化も必須の取り組みテーマです。2019年3月末のD/Eレシオは、既存事業の成長分野であるエレクトロニクスおよび光関連事業への設備投資拡大により1.17倍となりました。この數値を早い時期に1.0未満に低下させるとともに、中計目標である0.66倍の達成を目指していく方針です。
また、研究開発投資には、現在、連結売上高の3%弱を振り向けていますが、営業利益率を8%ないしは10%程度まで引き上げることにより、フジクラの新陳代謝を牽引し、成長戦略に欠かせない研究開発に十分な投資をしていく計畫です。
これらの成長戦略を著実に遂行していくためには、フジクラグループ各事業の事業環境、市場環境を正確に把握?分析し、具體的な事業施策に落とし込んでいくことが欠かせません。海外売上高比率が65%(2019年3月期)に達したフジクラにとって、海外市場の動向、特に深刻化しつつある米中の貿易摩擦をはじめとする世界情勢を正確に読み解くことは、今後の成長を左右する重要テーマと言えるでしょう。
目標達成のためには、コア事業の高収益化で利益の安定と拡大を図り、その利益を新規事業に投資してグループ全體の収益性を高め、社會課題に最善のソリューションを提供することにより新たな価値を創造する。このサイクルの構築を通じて持続可能なフジクラグループを形成することが私の果たすべき使命だと考えています。
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一般生活者の目線に立ったフジクラグループの価値創造
過去、フジクラは長らく電力用送電線や光ファイバケーブルなど、高い品質と信頼性を兼ね備えた製品を、電力會社や情報通信事業者に供給してきました。その時最も重要なことは、フジクラの製品がお客様の求める品質と仕様を完全に満たしているかどうかという點であり、お客様価値は製品という「モノ」に內在していたと言えるでしょう。しかし現在、フジクラグループが提供しているのはモノの価値だけではありません。
社會課題への解決に際してフジクラが大切にしていることは、お客様の先にいるエンドユーザー、すなわち一般の生活者の方々の視點を忘れないことです。フジクラグループのビジネスは一般にはB to Bの業態ですが、たとえば、第5世代移動通信システム(5G)の実現に向けた取り組みが官民雙方で加速しつつあります。社會セキュリティの向上や自動運転の進化、遠隔治療の進展といった5Gがもたらす便益を享受するのは一般生活者の方々です。フジクラグループにとっての「価値創造」とは、一般生活者の視點に立ち、本當に必要なサービスとは何か、さまざまな暮らしの課題やニーズにどのように応えていくかを考え、お客様と一緒になって來たるべき社會と生活者の暮らしを展望し、求められる商品やサービスを創造していくことです。
このことは、SDGs(持続可能な開発目標)が示すように、現代社會が抱えているさまざまな社會課題を解決することにもつながります。フジクラグループは“つなぐ”テクノロジーを通じた優れた技術と知見を駆使して、社會課題の解決に最善のソリューション、すなわちソフトとハードの両方の価値をご提供していくことで、SDGs達成に向けた貢獻を果たしていきます。
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お客様満足(CS)を超える
カスタマーディライト(CD)の実現を追求
価値創造のために私たちが目指すのは、CSを超えたCDの実現です。
CSがお客様の期待に応えることなら、「お客様感動」とも訳されるCDはお客様の期待を超えていくこと、と言ってもいいでしょう。そして期待以上の製品やサービスをご提供するためには、営業だけでなく技術者も積極的に外に出て、多くの一般生活者の方々と觸れ合い、潛在的なウォンツを発見しなければなりません。フジクラグループはCD 実現への取り組みを本格化するプロセスにおいて、社員は、社會課題に対して生活者の皆さんと同じ目線で同じように悩み、考えることを経てウォンツを発見し、そのソリューションを提供するといった一連の體験を感じることにより、モチベーションが向上し、結果として企業価値の拡大へとつながる「正のスパイラル」を早期に確立したいと考えています。
CD実現を目指した取り組みをひとつご紹介しましょう。フジクラグループが手掛けている産業用電線事業では、生産労働人口の減少を主因とする電気工事技術者の逼迫が深刻な社會課題となっています。都市の再開発においても、ビルの軀體は完成したものの技術者不足により電気工事ができないという狀況が頻繁に発生するようになりました。こうした現実を踏まえ、フジクラグループでは、面倒な工事が不要でワンタッチ接続ができるカプラー式の電力ケーブルを開発し、工事技術者が不要となることで工事の効率化、さらに工期の短縮化に貢獻しています。施工業者だけでなく、都市の再開発やビルの建設により大きな恩恵を受ける一般の生活者の方々を念頭に置いた畫期的な取り組みと自負しています。
また、米國International Business Machines Corporation(IBM)社から5G 関連のミリ波RF-IC(Radio Frequency Integrated Circuit、高周波IC)技術のライセンスおよび技術サポートを受け、高周波帯「ミリ波」と呼ばれる28GHz 帯の電波に対応した集積回路(フェーズドアレーアンテナモジュール)の製品開発を進めています?;鼐证螣o線裝置に搭載し高速無線
通信を行う高周波モジュールの商用化を目指し、將來的には數十億円規模の製品にしたいと考えています。モジュールの開発は、光ファイバ製品で培った高周波設計技術やガラス素材などの材料技術を活用します?!?br/>
5Gの特徴である「超高速」「多數同時接続」「超低遅延」の恩恵を受けるのは、我々のお客様の先にいる一般生活者の方々です。フジクラの“つなぐ”テクノロジーを通じてCDの実現を目指しています。
快適で持続可能な“みらい”社會を見據えた2030年ビジョン
次に、私が思い描いているフジクラグループの將來像と、その実現に向けたプロセスである成長戦略についてご説明いたします。
まず將來の企業像については、2017年3月に「2030年ビジョン」を策定し、內外に公表しました?!挨膜胜啊饱渐辚濠`ションの提供を通じて社會解題を解決し、快適で持続可能な“みらい” 社會をつくるとともに、継続的な企業価値の向上を図ることを將來のビジョンとして打ち出しています。
本ビジョンでは、想定する4つの市場分野を「Advanced Communication 」「Energy & Industry」「Life-Assistance」「Vehicle」と定めました。
Advanced Communicationについては、5G 対応を中心に次世代通信システムの構築に取り組んでいく方針です。
Energy & Industryでは、フジクラが保有している電力ケーブルの劣化診斷、余壽命診斷などの診斷技術や各種ノウハウを駆使して、電力インフラおよび生産設備の予防保全サービスを拡大していく計畫です。
Life-Assistanceの柱は醫療分野です。先進醫療や遠隔治療の分野で、フジクラが蓄積してきたITの知見を活用するともに、光ファイバとCMOSイメージセンサの結合を通じて內視鏡の進化を牽引し、人々の健康壽命の長期化に貢獻していきます。
最後のVehicleに関しては、CASEの4つのトレンドを注視しながら、新たな事業機會の獲得と、それにふさわしい事業體や組織の創設を検討していきます。
フジクラグループの成長戦略においてさらに重要なことは、ものづくり企業として、人々がいまだ手にしていない新たな価値を創造していくことです。お客様のウォンツ発掘→新技術の創出と新たなビジネスモデルの確立→企業価値の向上→ステークホルダーへの価値提供という好循環を構築しなければなりません。特に新技術の創出と新たなビジネスモデルの確立に関しては、社內リソースの活用だけでは不十分であるため、社外パートナーと連攜するオープンイノベーションの取り組みを本格化させていきます。フジクラが手掛けていない技術領域を社外パートナーとのコラボレーションで埋めることにより、さまざまな社會課題にトータルなソリューションを提案していきます。
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醫療分野での技術貢獻に寄與するフジクラグループの超電導技術
2030年ビジョンのLife-Assistanceで示した醫療分野での技術貢獻について、高溫超電導線材に大きな可能性を感じています。
2019年7月に、世界最高性能のレアアース系高溫超電導線材の量産技術開発に成功しました。超電導技術は醫療分野において、MRI(磁気共鳴畫像診斷)裝置やシリコン結晶爐引上げ裝置などに使われていますが、液體ヘリウムを用いる金屬系低溫超電導マグネットのシステムが高コストであることから、それに代わる技術開発が期待されていました。フジクラのレアアース系高溫超電導線材はこうした要請に応えるもので、今後の市場拡大と新規用途への展開が期待されます。フジクラはこれまで超電導分野で研究開発を長年続けてきており、資金?人材等の経営資源を継続的に
投入してきました。今回の量産技術開発の成功により、超電導領域での取り組みが投資フェーズから資金回収フェーズに入ったことを皆様にご報告します。
社外取締役を増員し経営判斷の客観性と透明性を確保
ここからは、中期経営計畫の基本方針のひとつに掲げているESG(環境?社會?ガバナンス)への取り組みの強化についてお話いたします。
フジクラは成長戦略を実現するために、2017年6月に監査役設置會社から監査等委員會設置會社に移行し、取締役會での意思決定の高度化と業務執行取締役に権限委譲、取締役會の監督機能の強化を図りました。2019年6月に、社外取締役の人數を5名に増員し、取締役會における議論の透明性を高めるとともに、取締役會の実効性の向上を実現しています。社外取締役には、企業の経営経験者や弁護士、公認會計士などさまざまなご経験を持つ方々が選任されています。取締役會における審議では、社外取締役の方々からさまざまなご意見をいただき、客観的な視點や経営判斷におけるリスク分析など、非常に活発な議論が交わされています。
また任意の委員會として、社外取締役を過半とする指名諮問委員會と報酬諮問委員會を設置し、ガラス張りの経営を目指しています。各委員會は社外取締役が委員長を務めており、取締役の指名や報酬の決定プロセスにおいて、客観性と透明性を確保する仕組みとしています。
さらに、株主?投資家の皆様との建設的な対話を通じて、継続的かつ中長期的な企業価値の向上を図るため、私をはじめ経営幹部による株主?投資家との対話等の取り組みを推進しています。
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社員は財産であり、社員の健康は重要な要素
私は、「社員は財産」であると考えています。その根底にあるのは、フジクラ創業者の実弟である中內春吉が、私財を投じて1919年に財団法人藤倉學園(現 社會福祉法人藤倉學園)を知的障害者を受け入れる施設がほぼない時代に創設したことです。社會に貢獻するという想いは、創設以降も代々の先輩たちにより支援が現在まで続いています。私は藤倉學園の支援を通じて、人を大切にすることの重要性や、社會課題へ取り組む姿勢を學ばせていただいています。藤倉學園は2019年に創立100周年を迎えました。フジクラグループは、今後も藤倉學園の支援を社會貢獻活動の「原點」に位置づけています。
私は、人を大切にするDNAを継承すべく、特に本質安全?健康経営を重視しています。
本質安全について、私は社員に向けて、「安全は企業価値そのものである」と繰り返し伝えています。過去に発生した事故を忘れず、毎年4月11日を「安全を誓う日」と定めました。本質安全の実現に向けて、「全ての労働災害リスクを許容可能なレベルまで低減し、重大災害を撲滅する」ことを主眼に、リスクアセスメントシステムを導入しました。
健康経営の推進では、社員の健康が重要な経営資源であると認識しています。この観點から健康診斷データベースの活用やストレスチェックの実施など、さまざまな健康増進プログラムを導入?推進しています。今年5月には、社員の健康データを蓄積?分析?活用する株式會社フジクラ健康社會研究所を設立し、健康経営を基盤とした企業価値向上の取り組みをスタートさせました。
お客様との信頼関係を糧に、次のステージへ
フジクラグループは“つなぐ”テクノロジーを通じてお客様の価値創造と社會への貢獻を追求することを不変のミッションに據えています。この“つなぐ”という言葉には3つの意味を託しました。
第1は、フジクラが電線?ケーブルの開発?製造を通じて、機器と機器、機器と人、そして人と人をつなぐ製品?サービスを提供してきたこと。
第2は、フジクラが製品?サービスの提供によって社會に獨自の価値を発信していること、つまり自社と社會の構成員である人間一人ひとりをつないでいることを意味します。
そして第3は、過去から現在、現在から未來へとその技術と事業を伝承し、將來にわたって社會の発展に貢獻していくという私たちの強い決意を表現しています。
社長就任から現在までの3年半、私は社員に向けて常に同じメッセージを送り続けてきました?!袱蜆敜韦趣长恧匦肖?、同じ目線で同じように考え、悩みなさい」。それがウォンツ発掘の原動力になるということです。営業はもとより開発部門や生産部門で働く者も、お客様企業やエンドユーザーそして一般の生活者と対話することで、真に望んでいるもの、あるいは自覚していない潛在的なウォンツに気づくことができる。そこからフジクラの次の挑戦が始まるのだと確信しています。
フジクラの最大の財産は、130年以上の歴史の中で培ってきたお客様との深い信頼関係です。今後もお客様との良好な関係の継続に真心を持って盡くしつつ、次なる成長と企業価値の向上に邁進していきます。ステークホルダーの皆様には、フジクラグループに対してこれまでと同様のご理解?ご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。
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